L'Eau froide

nanayoshi's 100 things I love.

nana yoshida

director / editer / writer

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17.06.24

#043

Book

きことわ

「その夜は、うすく靄がかかったように銀河がみえていた。永遠子は、自分が惑星に住んでいることをひさしく忘れていた。
これが「しし座流星群」か。自分と百花の真上に空があったことにすら驚いていた。
数百から数千個もの流星雨を観察できることを、ほとんどつけているばかりだった夕暮れのニュースでアナウンサーが言っていた。
寒気が強く、月齢2の細い月がかかっているのも星にまぎれてよくわからない。近視がかった永遠子の目には、流星も月も違わず、ただぼんやりとひかってみえる。火球のオレンジ色が風に流れ、タチウオやリュウグウノツカイにもみえる、永続痕をのこす。それが夜空の上から下へと垂直におちた。そうしたひかりは、眠りばなにまぶたの奥に散る、光源のわからないひかりに似ていた。
・・・

春子がずいぶんと昔に死んだ人のようには思えなかった。貴子や和雄は元気だろうか。かつての幼い自分のことまでもが懐かしく胸にこみあがる。どこかでいっしょに空をながめているようにすら思えていた。星が落ちる。起きている人と眠っている人とのあいだに分け隔て無く夜がただ過ぎてゆく。ひたすら流星がおちるのを目の前のこととしてただみあげていた。
・・・

あれはどこからが夢だったのだろうか。」

きことわ/ 朝吹真理子