第四の手
シートベルトをはずし、助手席でごろりと横になって、彼女の膝を枕にしてしまった。ダッシュボードの計器灯に顔を向け、右手をふんわりと彼女の膝に乗せる。アクセルと踏んだり離したり、ときにブレーキに足を運んだりする太腿の筋肉を感じた。彼女はそうっと手で彼の頬をかすめてから、また両手をハンドルに添えていた。
「愛してるよ」
「わたしも愛せるように頑張る。やってみるわ」
いま言えるのはここまでだろう、とウォーリングフォードは納得した。涙が一粒、上から顔にかかったが、泣いているのかとは聞かない。ただ運転を代わろうかとだけ言った—遠慮されることはわかっている。(誰も片手男に運転をまかせようとは思うまい)。
「平気よ」とだけ彼女は言った。
起き上がって、シートベルトを締めようかとも思った。川の西岸にあった石灰岩をもう一度見たくなった。あの山は自分にとってどんな意味があるのだろうー忍耐、というところか。
暗闇にテレビの光が浮くのを見ていたいような気もした。ダウンタウンへ戻る道筋で、どこのテレビも負け試合の最後を映しているはずだ。
・・・彼はすっと起きてベルトを締めた。暗い車内では彼女が泣きやんだのかどうかわからなかった。「もうラジオを消していいわ」と言うので、そうした。黙って橋を通過した。見上げるような石灰岩の山が、前に迫ったかと思うと、うしろで小さくなっていった。