Slaughterhouse-Five
《1》
わたしはモテルの部屋にあるギデオンの聖書をひらき、大いなる破壊の物語をさがした。
ロトがゾアルに着いた時、日は地の上にのぼった。主は硫黄と火とを主の所すなわち天からソドムとゴモラの上に降らせて、これらの町と、すべての低地と、その町々のすべての住民とその地にはえている物を、ことごとく滅ぼされた。
そういうものだ。
周知のとおり、この二つの町に住んでいたのは悪い人間ばかりである。彼らが消えたおかげで世界はいくらかマシになった。
ロトの妻は、もちろん、町のほうをふりかえるなと命ぜられていた。だが彼女はふりかえってしまった。わたしはそのような彼女を愛する。それこそ人間的な行為だと思うからだ。
彼女はそのため塩の柱にかえられた。そういうものだ。
人はふりかえってはいけないとされている。わたしも、二度とふりかえらないつもりだ。
とにかく、わたしはこの戦争小説を書きあげた。つぎは楽しい小説を書こう。
これは失敗作である。そうなることは最初からわかっていたのだ、なぜなら作者は塩の柱なのだから。
それは、こう始まる―
聞きたまえ―
ビリー・ピルグリムは時間のなかに解き放たれた。
そして、こう終わる―
プーティーウィッ?
《2》
God grant me the serenity to accept the things I cannot change; courage to change the things I can; and wisdom always to tell the difference.
(神よ願わくばわたしに変えることのできない物事を受け入れる落ち着きと、変えることのできる物事を変える勇気と、その違いを見分ける知恵とをさずけたまえ)
『スローターハウス5』
カート・ヴォネガット・ジュニア/伊藤典夫訳