星でパンをこしらえた話
夜更けの街の上に星がきれいであった たれもいなかったので 塀の上から星を三つ取った するとうしろに足音がする 振り向くとお月様が立っていた
「おまえはいま何をした?」
とお月様が云った
逃げようとするうちに お月様は自分の腕をつかんだ そしていやおうなしに暗い小路にひッぱりこんで さんざんにぶん殴った そのあげくに捨セリフを残して行きかけたので 自分はその方へ煉瓦を投げつけた アッと云って敷石の上へ倒れる音がした 家へ帰ってポケットの中をしらべると 星はこなごなにくだけていた
Aという人がその粉をたねにして 翌日パンを三つこしらえた
『一千一秒物語』
稲垣足穂