居心地の悪い部屋
スコアボードの上に、ガラスのような白い月が昇った。
…そこから三千マイル離れた場所で、彼は空気に混じる枯れ葉の匂いを味わい、高校の駐車場で名残惜しげにまた明日な、と呼び交す生徒たちの声を耳に聞いた。
一つの記憶が入れ子のように、別の記憶に次々と収められていく。
きっと命の終わりには、そうやってすべての思い出がきれいに折り畳まれていくのだろう。
そしてもしもこの世の生が慈悲深いのなら、我々の生きた証も、そんな風にして我々の手の中に残されるのだろう。
思い出の中の思い出の中の思い出の中の…。
『居心地の悪い部屋』
岸本佐和子