L'Eau froide

nanayoshi's 100 things I love.

nana yoshida

director / editer / writer

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26.09.22

#067

Book

生きるための表現手引き

ある人が、亡くなった親友について話してくれたことがあります。
写真家の親友が若くして旅立った。あとから思い起こされるのは、彼が対外的に発表していた写真作品よりもむしろ、何気ない仕草のほうであったと。不意にスマホカメラを向けられるときの変なポーズ、コンビニに入ってから早足で棚を巡る決まったルート……。写真家からすれば、いや作品を思い出してくれよ、と思うかもしれません。でも、外に打ち出される公的なもの、かっこいいもの、彼の功績や能力といったもの――こういった一連を「シグナル」というならば、むしろシグナルでないほう、つまり社会からは雑音とされるような、「ノイズ」に思われるようなものがむしろ、その人らしさを映し出す記憶として、残り続けることもある。近しい人だけが見た、彼らしさのあらわれです。
回想しながらその女性は、人にもし役割があるとするならば、それは他者の記憶の器になることではないかと語っていました。覚えておくこと。記憶をとどめておくこと。わたしはその写真家の方とは会ったことはないけれど、でも話を聞きながら、わたしのなかの想像上の彼の所作が、ありありと、そして忘れがたいものとして、眼前に浮かびました。

『生きるための表現手引き』
渡邉 康太郎